ここでクイズです.2つの電柱の間に電線を通そうと考えています.
電柱の間が10mの時,必要な電線は何mでしょうか?
そんなの電線をたるませればいくらでも長くできるじゃん,
と思ったあなたはIQが高いかもしれません.
ちなみにこのたるみの曲線のことを懸垂曲線(カテナリー曲線)といいます.
今回はこの曲線の話題に触れようと思います.
本題
先ほどの続きで電線を引張ってたわみを無くしていけば,10mで足りるんじゃない?
と思うかもしれません.
実はそれは間違いで,絶対に10m以上必要になります.
えっ!と思うかもしれませんが,例えば,電線の重さが1mあたり1kg,
電線の切れる荷重が10kgf(こんなものはないと思うが)とすると,
切れる限界で引張った時の長さは10.59mになります.
電線自体の自重を考えると,無限の力で引っ張らない限り,
支点間の距離よりも長くなります.
ただし,距離が短い場合はほとんど気にする必要はないぐらいで,
ガレージでも現在,電気工事で電線を壁に這わせていますが,
自重の影響は全く考える必要はないですね.
具体的に解いてみました
以下は数学的に計算した結果です.
高校物理,数学を理解していれば解ける問題です(が,式変形が面倒です).
電柱の間の長さを\(2D[m]\),電線の長さを\(2L[m]\),
電線の水平張力を\(T_{0}[N]\),電線の線方向の張力を\(T[N]\),
電線の1mあたりの重さを\(W[kg/m]\),重力を\(g[m/s^2]\)とする.
ここで,ある位置\(x\)における,線の長さを\(s\)とすると,
以下の図の力のつり合い,角度の定義や長さの定義から次の式が得られます.
\(T\sin\theta=Wsg\)
\(T\cos\theta=T_{0}\)
\(\displaystyle\tan\theta=\frac{dy}{dx}\)
\(s=\displaystyle \int_{0}^{x}\sqrt{dx^{2}+dy^{2}}\)
これを式変形して,
\(\displaystyle \frac{T_{0}}{Wg}\tan\theta\)\(=\displaystyle \int_{0}^{x}\sqrt{1+\tan^{2}\theta} dx\)\(=\displaystyle \int_{0}^{x}\frac{1}{\cos\theta} dx\) (\(\cos\theta>0\))
\(\displaystyle \frac{T_{0}}{Wg}=A\)とし,両辺を\(dx\)で微分すると,
\(\displaystyle A\frac{d\theta}{dx}\frac{1}{\cos^{2}\theta}\)\(=\displaystyle \frac{1}{\cos\theta}\)\(\Leftrightarrow\)\(\displaystyle A\frac{d\theta}{\cos\theta}=dx\)
ここで両辺を積分すると,
\(\displaystyle A\int\frac{d\theta}{\cos\theta}\)\(=\int_{} x dx\)\(\Leftrightarrow\)\(\displaystyle \frac{1}{2}\log\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}\)\(=x+C\)
ここで境界条件として,\(x=0\)で\(\theta=0\)より,\(C=0\)
よって,\(\displaystyle \frac{A}{2}\log\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}=x\)
式変形して,
\(\displaystyle \sin\theta=\frac{e^{\frac{2x}{A}}-1}{e^{\frac{2x}{A}}+1}\)
さらに\(\displaystyle \tan^{2}\theta\)\(=\displaystyle \frac{\sin^{2}\theta}{1-\sin^{2}\theta}\)より,
\(\tan\theta\)\(=\displaystyle \frac{e^{\frac{x}{A}}-e^{-\frac{x}{A}}}{2}\)
これを\(\displaystyle\tan\theta=\frac{dy}{dx}\)に代入して,さらに\(x\)で積分すれば,
\(\displaystyle y=A\left(\frac{e^{\frac{x}{A}}+e^{-\frac{x}{A}}}{2}+C\right)\)
境界条件として,\(x=0\)で\(y=0\)とすれば,\(C=-1\)
よって,以下が懸垂曲線となる.
\(\displaystyle y=A\left(\frac{e^{\frac{x}{A}}+e^{-\frac{x}{A}}}{2}-1\right)\)
さらに長さ\(L\)については,\(s=L\)のときに,\(x=D\)であるから,
\(\displaystyle L=\int_{0}^{D}\sqrt{dx^{2}+dy^{2}}\)\(=\displaystyle \int_{0}^{D}\sqrt{1+\left(\frac{dy}{dx}\right)^{2}}dx\)\(=\displaystyle A\frac{e^{\frac{D}{A}}-e^{-\frac{D}{A}}}{2}\)
ここで最大張力\(T_{max}\)は,\(x=D\)の時であり,
破断張力\(T_{b}>T_{max}\)であれば線は破断しない.
よって,\(T_{max}\)\(=\displaystyle \frac{T_{0}}{\cos\theta_{max}}\)\(\displaystyle \frac{T_{0}(e^{\frac{D}{A}}+e^{-\frac{D}{A}})}{2}\)
これを\(T_{0}\)について数値的に解き,\(L\)の式に当てはめれば答えが得られる.
※自重のみで壊れる時の線の長さは\(T_{max}\)の最小値を求めることで計算できるので,暇な方はぜひ求めてみてください.
大学まで行くと,変分法というエネルギ最小化問題を解くと,同様の結果を得ることができますし,双曲線関数\(\sinh,\cosh,\tanh \)の微分,積分計算もできるようになるので,大学数学ならより簡単に解けるようになります.
皆さんも周りで数学的なものを探してみてはいかがでしょう.
それではまた!
math03
P.S. 実際に設計する時は,風荷重なども重要になります.
・送配電線の風圧加重・たるみ、支線の強度計算について
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