2020年11月5日木曜日

【太陽光発電】(9)バッテリーを選ぼう!

太陽のエネルギーをきちんと貯めるために、バッテリーを選ぼう!


どうも、咳払いがうるさいとよく言われるので困ってます。サンドマンです。
今回は、だいぶ記事が充実してまいりました太陽光発電企画。今度はバッテリーの選定を進めてまいります!これまでの他の機器選定記事(ソーラーパネルチャージコントローラパネルーコントローラ間配線)と同様に、関連する基礎知識と併せてご紹介いたします!
かなり長い記事になってしまいました。ごめんなさい。この記事を書く過程で結構勉強になりました。。。)



【どんな種類のバッテリーを使うか?】

以前、チャージコントローラ選定の記事で書いた通り、オフグリッドソーラー発電向けのチャージコントローラの多くは、鉛蓄電池を想定して設計されています。よって最もシステム構築がしやすいのは鉛蓄電池となるでしょう。
一方で、今後はリチウムイオン電池の普及も期待されます。リチウムイオン電池は鉛蓄電池に比べ、同じ容量でも小型・軽量で、繰り返し充放電にも強いなど、様々なメリットがあります(詳細な比較はこちらのサイト[1]などをどうぞ)。今後コストダウンや関連機器の普及が進めば、オフグリッドソーラー発電の世界の主流もリチウムイオンバッテリーになるかもしれませんね。

今回はバッテリーや関連機器の入手性を重視し、鉛蓄電池を選定します。この後の説明では、バッテリーに鉛蓄電池を使用することを前提としますね。



【鉛蓄電池の構造】

さて、鉛蓄電池の適切な選定や正しい取り扱いをする上で、まずは構造をきちんと確認しておきましょう。
鉛蓄電池は、正極(+極)に酸化鉛(PbO2)、負極(+極)に鉛(Pb)、電解液に希硫酸(H2SO4)を使用した電池です。取り出せる電圧は2V程度のため、市販されているバッテリーは、この組み合わせ(セル)を複数個直列につなぎパッケージ化されています。下の図は、6セルを組み合わせた公称12Vのパターンの模式図です。正極と負極の間には、セパレータ(電極の接触を防止しつつ、電解液を通す膜)が付いています。なお、実際の構造はもう少し複雑です。

充電・放電の際の化学式は次のように表されます。放電すると、正極・負極の表面で電解液との化学反応が起こり、硫酸鉛(PbSO4)が析出・付着し、水(H2O)が残ります。充電の際はその逆です。電子の動きなども含めたより詳細な反応式は、こちらのページ[2] の解説が詳しいです。


【鉛蓄電池の種類】

次に、鉛蓄電池の種類を確認し、今回のシステムに使うものを選定していきましょう!
様々な種類がありますが、分類の仕方は大きく分けて2種類あります。

①スターターバッテリーとディープサイクルバッテリー(参考:[3][4][5][6][7][8]
スターターバッテリーは、車のバッテリーとして一般的に使われているものです。エンジンを始動するためのモータを回すために、短時間で大電流を放出することを主目的としています。そのためには化学反応を高速で起こす必要があるので、電極の表面積が大きくなるように設計されています。具体的には、薄い電極をたくさん並べる、「スポンジ状」の素材にするなどです。
欠点は、深放電(空っぽに近い状態まで放電する)を繰り返すとすぐに劣化してしまうことです。電極の構造が先ほど説明した通りのため、電極(主に正極)の素材の劣化や脱落などが起きやすくなります(※)。実際に劣化した電極は下図のような感じになるそうです。なお車で使う場合には、一旦エンジンが始動した後は、エンジンの動力で充電され続け、常時ほぼ満充電の状態を保っているため、問題にはなりません。

 電極(正極)の劣化の様子。元は金属格子に活物質(酸化鉛)を塗り固めた構造。
深放電の繰り返しにより膨張・収縮が繰り返され、
活物質が軟化し剥がれ(左図)、落下する(右図)
(出典:株式会社ニスコ バッテリー関連資料[8]


これに対し、ディープサイクルバッテリーは、少ない電流を長時間かけて取り出すことに長けているもので、深放電にも耐えられるよう、電極は厚く、高密度に作られています。当然電極の表面積が小さくなるので、短時間に大電流を得るのには適しません。

オフグリッドソーラー発電システムを組むのなら、なるべく深放電に強いものを選んだ方がいいですね。ですからディープサイクルバッテリーを選びましょう。

(※)厳密には、主に正極の活物質の軟化・脱落。スターターバッテリーが深放電に弱い理由に「サルフェーション」(詳細は後述)が起きることを挙げているWebサイトもあるが、明確な根拠を確認することができなかった。ディープサイクルバッテリーでもサルフェーションは起きるので、誤った説明なのでは、と思うのですが、どうなのでしょう。



②開放型と密閉型(参考:[3][4][9][10]
鉛蓄電池を充電していき、満充電に近づいてくると、バッテリーから酸素と水素が発生します。「さっきの反応式に書いてない!」とおっしゃる方もいるでしょうが、これは、満充電に近づくと、反応させるための硫酸鉛がなくなってしまい、余分な電気で希硫酸中の「水の電気分解」をしてしまうからです。

自動車用のスターターバッテリーとして多く用いられているのは、開放型のバッテリーです。開放型はその名の通り、容器が密閉されていませんので、電気分解により生じた水素が外に逃げていきます。また、電解液が電気分解や蒸発により、減少します。このため、以下のデメリットがあります。
  • 密閉空間で使用すると周囲に水素が充満し、爆発のリスクがある
  • 定期的に電解液の補水が必要
このデメリットを解消したものが密閉型のバッテリーです。密閉型のバッテリーは、容器からガスが逃げないように密閉した上で、水素の発生や電解液の減少を抑えるため、以下の工夫をしています。
  • 負極に鉛とカルシウムの合金を用い、ガスを吸収する反応を起こす
    (反応式の詳細は[9]を参照)
  • 電解液をスポンジに染み込ませる、ゲル化するなどし、余分な電解液をなくす
    (詳細は[10]が詳しい)
なお、万が一多量の水素が出た場合に逃がせる安全弁が付いていることが多いです。価格はもちろん開放型に比べ高額です。

今回のシステム構築に当たっては、バッテリーは室内に置きますから、水素による爆発のリスクは抑えたいですね。電解液の補水もできればやりたくない(硫酸の扱いには注意が必要。。。)。よって密閉型の方が好ましいと考えます。


先日の接続テストの記事で使ったバッテリーは、開放型のスターターバッテリーだったんですよね。今回の結論とは完全真逆。当時は何も考えてなかった・・・


【容量を確認しよう!】

電池の種類を決めたら、次は容量(サイズ)を決めましょう!
まずは容量の読み方から。電池の容量の単位は「Ah」(アンペアアワー)で表現されます。これは、
電池の容量[Ah]  = 電池から取り出せる 電流[A]×時間[h]
を表します。数字の上では、100Ahであれば、100Aの電流を1時間(100×1)、50Aの電流を2時間(50×2)取り出せるという解釈ができます。

しかしこの容量を見る際は、以下の2点に注意が必要です。

①充電・放電にかける時間が短くなるほど、容量は小さくなる
以下のグラフを見てください。横軸に放電時間率(何時間で全容量を放電し切るか)、縦軸に容量(放電時間率20Hを100%とした比)をとってグラフにしています。
放電時間率を小さくすると、すなわち短時間に高速で充放電すると、容量が小さくなることがわかります。(20Hと5Hでは20%くらいの差が!)もちろん、特性はバッテリーによって微妙に違いますよ。

放電時間率と容量の関係
(出典:株式会社ニスコ バッテリー関連資料[8]

この理由を感覚的に説明すると、一気に大電流を充電・放電しようとした際に、電極での化学反応が間に合わないためらしいです[11]
なお、厳密な話は割と最先端の研究のようで(参考:筑波大学プレスリリース[12])。電極内でのイオンの拡散が関係しているらしいですよ。

このように、電池の容量は充放電速度によって変化するので、電池の容量表記の際は、併せてその基準となる(放電)時間率を併記しています(例:5時間率、10時間率)スターターバッテリーでは主に5時間率が、ディープサイクルバッテリーでは主に10時間率や20時間率が多く使われているようです。必ず確認しましょう。

その上で、システムに使用する際の充放電速度が、性能表記の基準よりも大きい場合には、容量が小さくなることを見込みましょう。(そもそもこのような使い方をせず、ゆっくり充電・放電できるシステムにした方が良いと思います。)

②温度が下がると容量が小さくなる
先ほどと同様、グラフをご覧ください。横軸に周辺温度、縦軸に容量を取りプロットしたものです。ご覧の通り、温度が下がると容量が小さくなります。(30℃と0℃では2割も違うんですね。)
温度と容量の関係
(出典:株式会社ニスコ バッテリー関連資料[8]


これは、電池自身の持つ内部抵抗(電解液や電極での電流の流れにくさ、など)が温度によって異なるためです。電池の性能表記をする際には、基準となる温度が併せて書かれている場合が多いです。特に寒冷地でシステムを組む場合には、多少考慮した方が良いかもですね。
なお、チャージコントローラの中には、温度による容量変化を考慮した充電制御を行えるものもあります。(先日私が買ったものもこの機能が付いていました。)


【鉛蓄電池の寿命】

鉛蓄電池の劣化のメカニズムには下図のように様々なものがあります。一部ちらっと触れたものもありますね。それぞれの要因の影響度は、使い方によって異なります。ここでは全ての要因について触れることはしません。詳細は図の出典([7])を参照ください。
ここでは、「サルフェーション」と「活物質の脱落」に着目します。

日置電機株式会社 鉛蓄電池ハンドブック[7]より抜粋

①サルフェーション
電池を放電した際に、電極に硫酸鉛が付着するのは先ほど説明した通りですが、これをこのまま放置してしまうと、安定した結晶構造に変化する(結晶化)し、内部抵抗は大きくなります(電流が流れにくくなる)。また、この結晶は充電しても分解されません。結果的に電池の容量が失われてしまうのです。
このサルフェーションを起こさないためには、放電した状態で長時間放置しないことが重要です。

サルフェーション発生過程(電極表面の顕微鏡写真)
サルフェーションを起こした電極の例
(白いものが結晶化した硫酸鉛)
(出典:株式会社ニスコ バッテリー関連資料[8]

②電極活物質の脱落
これついては、どのような現象かは先ほどスターターバッテリーの説明の際にさせていただきました。活物質の脱落が起きやすくなる条件は、放電の深度が大きく、充放電の繰り返し数が多いことです。放電深度が大きいと、電極の膨張・収縮量が大きくなるからですね。
ご参考に、放電深度と寿命の関係をみてみます。これはあくまで一例ですが、放電深度が大きいと、寿命がぐっと縮まることが理解できると思います。
バッテリーを使う際は、なるべく放電深度を小さくした方がいいですね。といっても小さすぎるとバッテリーが意味をなさないですけど。こちらのサイト[3]では、放電深度を50%より小さくすることを推奨しています。

放電深度と寿命の関係
(出典:株式会社ニスコ バッテリー関連資料[8]


【それでは選定!】

以前のシステム構成の記事で、使用時間を2時間、必要容量を250Ahと見積もり、購入予定のバッテリーサイズを300Ahとしました。しかしながら、ここまでの議論の結果、放電速度、放電深度の観点から、300Ahだとだいぶ不足なのでは、という気がしてきました(泣)。
購入費用の問題もありますから、まずは300Ah分準備して、必要に応じて買い足すこととしたいと思います。

今回の主な選定条件は、以下を満たす範囲で安いもの、です。

  • ディープサイクルバッテリー
  • 密閉型
  • 人手で持ち運べる

このうち、意外と「手で持ち運べる」ことが結構重要です。鉛の重さを舐めてはいけません。せっかく買っても人手で運べなかったら据えつけられません。(それどころか、「車上渡し」で配達されたら荷下ろしすらできません。。。)


この条件で探したところ、いいものが見つかりました。
こちらの商品です!!
KOBE HC100-12
出典:Aucfan

主にゴルフカート用に使われるディープサイクルバッテリーのようです。密閉式(AGM式)とのことでメンテナンスの手間もかかりません
こちら、ゴルフカート用としては使えなくなった中古品が、定期的にヤフオクで出回っています。(18ホール走行できなくなると交換するらしい。)安く手に入れたければおすすめです。(まあ、電池は水物ですから、中古がおすすめかというと、そういうわけではないのですが、安いので・・・)
現在の出品状況はこちらをチェック!!

なお、重量は46kg程度と激重です。2人がかりでなんとか運べる程度。これより大きい容量だと、持ち上げるのが困難になりますね。このようなヘビー級のブツなので、配送費用も高くつきますし、個人宅に配送してくれない場合もあります(営業所止め限定とか)。購入時には配送条件をよく確認してくださいね。


というわけで、今回はバッテリーの選定に関する記事をまとめました。記事をまとめる過程で、現在のシステム構成にやや無理があることもわかってきたので、今後評価・改善していきたいと思っています。
次回は、バッテリー据え付けのための準備について、紹介したいと思います!
ではでは!


【参考Webサイト】

今回の記事を書く際には情報集めに結構苦労しました・・・。簡単に結論が書かれているソースなら多数見つかるのですが、その根拠をきちんと説明しているWebサイトがなかなか見つからず。あらゆるWebサイトを参考にしています・・・。

[1]電源専門店 オンリースタイル 導入前に知っておきたいリチウムイオンバッテリーのメリット
 https://eco-power.jp/lithiummerit.html
[2]化学のグルメ 鉛蓄電池を攻略!仕組み・原理から各極の反応式、計算問題の解き方まで!
 https://kimika.net/rr1namaritikudenchi.html#i-4
[3]ネオネットマリンWeb本店 
 https://www.neonet-marine.com/oyakudati/battery-tisiki.html
[4]これだけ!電池(著者: 板子一隆、 工藤嗣友 出版:秀和システム)
 ※試し読みはこちら
[5]株式会社GSユアサ The Deep Story Vol.6 現場の“働き手”たちを動かす、ディープサイクル用鉛蓄電池。
 https://www.gs-yuasa.com/jp/deepstory/vol6.html
[6]GSユアサテクニカルレポート 第16巻 第2号 
 「鉛蓄電池正極活物質のサイクル劣化過程の解析」
 https://www.gs-yuasa.com/en/technic/vol16_2/pdf/016_02_008.pdf
[7]日置電機株式会社 鉛蓄電池ハンドブック ~鉛蓄電池の正確な測定のために~
 https://www.hioki.co.jp/file/cmw/userguides/4871/pdf/?action=browser&log=0&lang=jp
[8]株式会社ニスコ バッテリー関連資料 2017年2月版
 https://www.battery.co.jp/tech/pdf/pdf_01.pdf
[9]日立化成株式会社 鉛電池の原理・特徴
 https://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/sds/ibattery/013.html
[10]ゼファー株式会社 最高級ディープサイクルバッテリー「ライフライン」-> 種類と比較
 https://www.zephyreco.co.jp/lifelinebattery/main_type.htm
[11]Auto Camp Fan バッテリーの知識
 http://www.eonet.ne.jp/~ac-fan/hot/batt_02.htm
[12]筑波大学 プレスリリース 「イオンの拡散が電池容量を決める ~電池容量が電流密度に依存するメカニズムを解明~」
 https://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p201510200000.html
[13]株式会社インフューズ バッテリーの劣化原因
 https://www.infuse-net.com/bt-cause.html


※記載項目に誤りなどございましたらご連絡ください。修正いたします。

(サンドマン)

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