メンマ作りはなかなかうまく進まなかった。
何故なのか。どうしたら改善できるのか・・・!
どうも。家での楽しみを増やそうと、燻製機をポチっちゃいました。サンドマンです。
さて、これまでコツコツ進めてまいりましたメンマ企画、
「柔らかい部分だけ美味しく食べられた(他はまるでダメ)」
(左:硬い竹ver. 右:柔らかい竹ver.)
という結果となりました。(期待していた皆さま、すみません・・・)(左:硬い竹ver. 右:柔らかい竹ver.)
※過去の記事はこちらから!
ただし、私の本職は一応エンジニア。テクノロジーを生業とする者として、きちんと原因を考察し、次に生かしていきたいと思うのです。(うまく行かなかったね!チャンチャン。は、嫌だ。)今回はその考察に関するお話です。少々内容が小難しくなるかもですが、ご容赦を。
【そもそも発酵の知識が不足していた?】
そもそも私たち、メンマ作りをするにあたって、発酵そのものを根本的に理解していたのでしょうか。実は今回の企画を進めている最中に、当ガレージのメンバーであるジャンクマン氏の知人で、発酵に詳しい方とコンタクトを取り、おすすめの本を教えてもらっていました。
確かに発酵食品もDIYか。。。
こちらの本、世界各地に伝わる様々な発酵食品の作り方を、著者が自分で作った経験や、世界各地で見聞きしたことをもとに網羅的にまとめられたものとなっています。ただし、分量や手順を事細かに載せている体裁の単なる「レシピ本」ではないので、単にレシピをささっと知りたい、という人には不向きです。作り方のコツを、その背景知識も含めて説明したり、派生系の様々な手法を併せて紹介することで、読者に幅広く応用できる知識を伝えようと試みています。発酵を取り巻く化学、技術や文化に純粋な興味をもち、これから様々な発酵食品に本気でトライしたい方におすすめの一冊です。
で、こんな書評を書いていますが、じっくりとこれまで読んでおらず・・・。どうしたら美味しいメンマを作れるのか、読んで探ることにしました。早速、そもそも知識不足だと感じさせられました。。。
この本には残念ながらメンマの製法に関する記載はなかったのですが、広いくくりで「野菜の発酵」と捉えると、いくつか気になる記述が見つかりました。
今回はそれらを元に、
- 空気の遮断
- 塩分濃度
- 水道水の消毒薬
- 発酵前の加熱
- 竹の繊維の硬さ
の5点について、気づいたことをまとめようと思います。
【空気の遮断が不十分だった?】
そもそも、よく見る野菜の漬物って、液体にどっぷり使っているものが多いですよね。これは何故か。「発酵の技法」には以下のような記述がありました。
「野菜をジャーに詰め込んで野菜自体からしみだしたジュースに全体が浸かるようにすれば、選択的環境が形成される。空気を遮断することには、野菜にカビが繁殖できないようにし、乳酸菌の発育を促進する効果がある。」
「選択的環境」という言葉が少々小難しいですが、ここでは酸素が無いと繁殖できない細菌の活動が制限される、ということですよね。一般的な乳酸菌は、酸素があってもなくても活動できます(※)。中を液体で満たして空気に触れないようにすることで、他の細菌に邪魔されず、乳酸菌が元気に繁殖できるようになる、ということでしょう。
(※)「通性嫌気性」というらしい。ちなみに酸素があると活動できないのが「偏性嫌気性」、酸素があると活発になるのが「好気性」。
そういえば今回のメンマ作り、初めのうち(第1話)は塩をたっぷり入れただけで、水には浸かっていなかった。。。これが乳酸発酵があまり進まなかった要因だったんだろうか。。。
【塩分濃度、高すぎない?】
漬物に使う塩の量って、レシピにはキチンと書かれていますよね。今回あまり気にせず、雑菌の繁殖が怖いからと、塩をドカドカと入れてしまいました。「発酵の技法」には、以下のように書かれていました。
「発酵野菜に塩をどれだけ使うか決めるには、発酵環境での塩の働きについて理解しておくと役に立つ。塩には発酵や酵素の活動を遅らせ、長期間の保存を可能とする性質がある。」つまり、塩を入れすぎると、乳酸菌の活動が弱まる、ということか?
乳酸菌は塩分を好む(好塩性の)細菌なので、塩漬けすることで、こちらも塩分が苦手な細菌の生育を抑制する「選択的環境が形成される」わけですが、どうやらものには限度があり、入れれば入れるほどよいという訳では無いようです。日本食品微生物学会雑誌に掲載されている論文によれば、乳酸菌にとって好適な塩分濃度は、せいぜい5〜10%程度のようです(種類によって多少違うでしょうけど)。それを超えたら活動が抑制されるんでしょう。
そういえば今回のメンマ作り、途中から(第2話)水を入れましたけど、多分これ、ほぼ飽和水溶液状態だったと思われます。とすると、塩分濃度約23%(参考:木下製粉Webサイト)。乳酸菌が育つには多分塩分濃すぎ・・・。
【水道水の消毒成分が悪さしていた?】
第2話で水を入れた際には、水道水の残留塩素を飛ばすため、煮沸して冷ました水を使いました。調べると、確かに水道水の残留塩素は乳酸菌の繁殖に悪影響を及ぼすようです。きちんと飛ばし切れていたかなあ。
さらに、「発酵の技法」に以下の記述を見つけました。
「残念なことに、最近は塩素の代わりにクロラミンというもっと安定した物質が水道水に使われる事が多くなってきた。塩素をアンモニアと反応させて作られるクロラミンは、普通の塩素よりも消失しにくいという特徴がある。クロラミンは煮沸で取り除くことはできず、また室温で揮発することもない。」
ということは、クロラミンが水道水に入っていたら、煮沸してもダメ、ということですよね。。。このクロラミン、日本国内の浄水場では使われていなさそうです(参考:日本水処理工業Webサイト)。僕らのガレージがある平塚市を所轄する寒川浄水場では、次亜塩素酸ナトリウムが使われているとのこと。良かった。
しかし、積極的に投入していなくても、水道水中の塩素とアンモニアが反応し、クロラミンを形成することはあるようで、水道水に残留しているケースもあるようです(参考:保健医療科学 Vol.66 No.2に記載の論文)。まあ取り越し苦労で、多少残っていても大丈夫かもしれませんし、浄水器で除去できる可能性もあるようですが。
念には念を入れるなら、ミネラルウォーターとか使った方がいいんですかねぇ?
【発酵前の加熱で殺菌された?】
第1話では、竹を塩漬けする前に小一時間煮ました。これは竹のアク取りのためのもので、各種Webサイトで紹介されている作り方でも同様の手順があります(例:京浜貿易Webサイト)。しかしここで疑問が。加熱したら竹に付着した乳酸菌、殺菌されてしまうのでは?
現に、「発酵の技法」の中で取り上げられている野菜の発酵食品のほとんどは、非加熱で作られています。加熱を伴う手法としてはおそらく唯一、ディリービーンズ(参考:Wikipedia)の製法(の亜種)が紹介されているくらいです。この部分で筆者は、さやいんげんを加熱することで、付着した乳酸菌が死滅してしまうので、同時に漬け込んだ他の生野菜(ニンニクとディル)に付着していた乳酸菌で発酵が進んだのだろうと結論付けています。
おそらくメンマ作りのときも同様で、加熱により竹にもともと棲みついていた乳酸菌は死滅してしまうのだと思います。それでも発酵が進むのは、周囲の空気や、発酵に使う容器などから乳酸菌を得ていたからなのでは、と思われます。
ということは、第4話の考察で触れたような、乳酸発酵を促進する何かをするという案は、割と筋は悪くないってことですかね。発酵時に乳酸菌を意図的に外から導入する手法はよく使われているようで(野菜では多く無いが)、この時に入れる混ぜ物を「スターター」と呼ぶらしいですね。調べると、メンマの時短レシピとして、糠漬けを使う手法もあるようです(参考:小泉武夫マガジン)。これなら糠床から乳酸菌が得られますもんね。
塩漬けする際には、乳酸菌を外から入れてやった方が確実かも。
【そもそも、竹自体が硬すぎた?】
第4話の考察では、竹自体が硬くて発酵しなかったのでは、という仮説も立てていました。しかし今回のメンマ作りでは、竹の硬さを官能的に(≒適当に)3つに分けただけで、結局どのくらいの硬さまでなら発酵可能なのか、検証できずにおります。これでは再現性がない・・・!
この件について、「発酵の技法」の中で触れられている記述は見つからなかったのですが、良い論文を見つけました→(龍谷大学里山学研究センター2015年度年次報告書の論文)。孟宗竹の育ちすぎたタケノコでメンマ作りを試みた論文です。これにバシッと記載があります。
どうやら、竹自体が硬くて発酵しなかった、という仮説は間違いなさそうです。組織が硬くなると、乳酸菌によって分解できる糖類が少なくなっていくのでしょう。
次回は硬度計を使って、メンマに使えるか否か仕分けるのが良さそうですね。
(※)置針式、デュロメータGS-752GタイプDO、テクロック
あ、そうそう、このブログを書くために色々と調べ物をしていたところ、私たちと同じようにメンマ作りに取り組み、概ね私たちと同じ結論を得ている方のTwitterを見つけました(かねこさん@ebius、孟宗竹からのメンマづくりに挑戦)。同志!私たちの結果は間違っていなかったんだろうな、と思いました。
この件について、「発酵の技法」の中で触れられている記述は見つからなかったのですが、良い論文を見つけました→(龍谷大学里山学研究センター2015年度年次報告書の論文)。孟宗竹の育ちすぎたタケノコでメンマ作りを試みた論文です。これにバシッと記載があります。
「初期硬度30(※)以下であれば、どの処理でも十分に軟化可能である」とのことらしいです(きちんと硬度計使って測っているんですね)。
どうやら、竹自体が硬くて発酵しなかった、という仮説は間違いなさそうです。組織が硬くなると、乳酸菌によって分解できる糖類が少なくなっていくのでしょう。
次回は硬度計を使って、メンマに使えるか否か仕分けるのが良さそうですね。
(※)置針式、デュロメータGS-752GタイプDO、テクロック
あ、そうそう、このブログを書くために色々と調べ物をしていたところ、私たちと同じようにメンマ作りに取り組み、概ね私たちと同じ結論を得ている方のTwitterを見つけました(かねこさん@ebius、孟宗竹からのメンマづくりに挑戦)。同志!私たちの結果は間違っていなかったんだろうな、と思いました。
【というわけで、結論】
ここまでの考察から、- 水に浸からないようなら早々に差し水する。
- 塩分濃度は高すぎるとだめ。5〜10%くらいにしておく。
- 使う水には気をつける。ミネラルウォーターを使うのもありかも。
- 加熱で乳酸菌が死滅するので、スターターを入れた方が良いかも。
- 初期硬度30未満の竹を使うのが良さそう。
となりました。次回メンマを作るときの参考にします!
長々と書いてしまいましたが、皆様のご参考となれば幸いです!
なお、記載内容には誤りを含む可能性がございますので、ご容赦を。
※2020/07/29:龍谷大論文の硬さ測定方法注記を修正しました。
(サンドマン)
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